いびきと睡眠時無呼吸

 いびきも睡眠時無呼吸も、睡眠中に上気道(鼻や咽)が狭くなって起こります。上気道が狭まる程度が軽ければいびきだけですが、狭窄が高度になれば呼吸が止まります。特に睡眠時無呼吸症候群は、自覚症状として日中の病的な眠気を引き起こすのみならず、無自覚であってもメタボリックシンドロームの原因となることから、最近特に社会的にも問題となっています。

睡眠時無呼吸症候群は呼吸器内科などで治療を受けているケースもありますが、原因となっている気道狭窄は、鼻や咽といった耳鼻科の領域に属する部分で起こっており、耳鼻科での治療がより適切です。

しかし睡眠時無呼吸症候群自体、比較的新しい疾患概念であり、全ての耳鼻科で適切な診察、検査、治療が受けられるとは限らず、困っていらっしゃる患者さんが多いのが実情です。

あさひ町榊原耳鼻咽喉科医院では、睡眠時無呼吸症候群の診療を重点的に行っております。このページでは睡眠時無呼吸症候群の病態から治療まで、解説いたします。

病態は?

鼻や咽の空間が何らかの原因により狭まって、空気が通りにくくなりますと、それよりも肺に近い部分、多くは舌根や軟口蓋に強い陰圧がかかり下へとひきこまれ、ますます気道が狭くなります。この狭い部分を空気が通ときに起こる雑音がいびきであり、いよいよ完全に気道が閉じてしまうと無呼吸となります。従って側から見ますと、大きないびきが2、3発起こって静かになるというパターンを繰り返しているということになります。この静かになっている時が無呼吸なのであり、その間血液に供給されるべき酸素は途絶え、酸欠状態となっています。脳には血液中の酸素濃度をチェックするセンサーがありますから、窒息の危険を察知して覚醒反応が起こり、睡眠が浅くなります。そのため睡眠の質が悪くなり熟睡感がなくなり、日中に眠気が起こります。  また、無呼吸による低酸素状態はいわば体内での不完全燃焼を引き起こし、糖尿病や高脂血症など代謝の異常の原因ともなりますし、低酸素状態というストレスは高血圧をも引き起こします。

 

年齢層による原因の違いは?

     

乳幼児から高齢者まで全年齢層で起こりえますが、原因となる疾患は、大人と子供で異なります。  乳幼児から学童期まではほとんどがアデノイド、口蓋扁桃肥大が原因となります。アデノイドも口蓋扁桃もリンパ組織の塊であり、大きさには個人差があります。また、その大きさは、成長の過程においても変化します。生下時より徐々に大きくなり、アデノイドが6~7歳頃、扁桃が7~8歳頃に最大となり、その後は徐々に縮小していきます。  成人では、肥満、加齢による筋力低下による咽頭腔の狭窄が主な原因となります。また、下顎が小さくて後退している人も睡眠時無呼吸症候群になりやすいです。下顎が発達しにくくなる要因としては、小児期の口呼吸がありますので、成人の睡眠時無呼吸症候群も遡れば小児期の鼻づまりが原因となっているということができます。

 

年齢層による症状の違いは?

 

成人の睡眠時無呼吸症候群では、日中に病的な眠気が起こり、作業能率の低下や居眠り運転などを誘発することが問題となりますが、小児においては眠気よりも学力低下や,多動性・攻撃性などの注意欠陥/多動性障害(ADHD)様の認知・行動面の問題が生じやすく,発達にも影響を及ぼすとされています。また、特に就学前の睡眠時無呼吸症候群では、陥没呼吸といって息を吸おうとするときに胸壁が凹んでしまう現象がみられたり、夜尿、夜驚(突然起きてパニックに陥る状態)や、睡眠時に分泌される成長ホルモンが不足して成長障害が起こったりします。体型も成人では肥満が多いのですが、小児ではむしろ低身長、低体重が多いことが分かっています。

 

鼻疾患との関連は?

 

全年齢において、鼻づまりは睡眠時無呼吸症候群の原因となります。また、無呼吸がなくても鼻づまりは学習障害を引き起こします。鼻づまりの原因となる鼻疾患としては、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻茸(鼻ポリープ)、鼻中隔彎曲症などがあり、これらは互いに合併しやすい傾向があります。

 

いびきのみなら、健康に影響はないのか?

 

いびきは睡眠時無呼吸症候群で必発の症状であり、上気道の閉塞が軽いうちは単純性いびき症、閉塞が重くなると睡眠時無呼吸になります。  日本において小学生1年生と5,6年生に行ったアンケート調査からは小学校1年生においてはいびきをかく割合が49.7%(そのうち「いつもかいている」が4%,「時々かく」が45.7%)にまでなり,5年生が43.8%(いつもかいている」が3.2%,「時々かく」が40.6%)6年生が38.3%(いつもかいている」が2.4%,「時々かく」が35.9%)と年齢があがるにつれて徐々に減少してゆくこと。さらに小学校5,6年生では「イビキをかく群」は「イビキをかかない群」にくらべて有意に学習意欲が低下し,落ち着きがないという結果が報告されています。

 

どんな診察、検査をするのか?

   

まずは問診で寝ている間の状態、日中の眠気の有無、いわゆるメタボリックシンドロームといわれる疾患がないかなどを確かめます。寝ている間の状態は非常に大切な確認事項で、子供であれば寝ている間の状態を、出来れば上半身と顔が分かる状態でビデオやスマホで数分間録画して医療機関に持っていくと良いです。 診察は、特に鼻と咽に狭そうなところがないかをよく診ます。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合には、睡眠時ポリソムノグラフィーを行います。理想的には入院して脳波まで記録すると、睡眠の深さまで分かって良いのですが、できる医療機関が少ないのと、入院がなかなか出来ないことも多いので、簡易携帯型機器で検査を行うことが多いです。簡易携帯型機器は口と鼻の呼吸、酸素飽和度、どちら向きで寝ているか、いびきなどを一晩中モニターするもので、自宅でできるものです。

治療は?

治療も、小児と成人で大きく異なります。小児ではアデノイドと扁桃を手術的に摘出することが有効です。その場合は入院が必要となります。手術は治療効果は高いのですが、リスクがないとはいえず、勧められるのは睡眠時無呼吸の程度が重い場合です。軽い場合や、何らかの理由により手術 を受けられない場合には、抗アレルギー剤の一つである抗ロイコトリエン剤の内服や、ステロイドの点鼻などを行います。副鼻腔炎を合併している場合には、こちらも合わせて治療します。 成人では、鼻づまり、咽頭の形態の問題、肥満、加齢の影響などが複合して睡眠時無呼吸症候群となっていることが多く、原因治療が難しく、持続陽圧呼吸(CPAP: シーパップ)療法が最も確実な治療となります。

睡眠時無呼吸がなくて、いびきだけの場合には、ナステントなどを使うと良くなることもありますが、使い捨てでコストがかかるのと、装着時の違和感が欠点です。以前はだれでもネットで購入出来ましたが、昨年末に間違って飲み込んでしまう事故が発生。一時メーカーが自主回収して、現在は指定された医療機関の指示書がないと購入出来なくなっています。当院では、ナステントのフィッティング、指示書の発行も行っております。