耳鳴について考える〜苦痛の連鎖〜

前記事 耳鳴について考える〜脳と音の関係〜 では音刺激によって引き起こされる脳の活動は、大脳皮質のみならず、大脳辺縁系や視床下部ー自律神経系の反応もあり、それぞれがまた関連しあっているということをお話ししました。耳鳴もまた、最初は内耳で起こるものが多いのですが、それによる神経の興奮もまた、脳幹を経て、大脳皮質へと伝達されます。大脳皮質では、耳鳴を気にしなくても良いものとして認識して処理してしまえば、大脳辺縁系や自律神経系はあまり影響を受けません。しかし、大脳皮質が耳鳴を特に警戒すべき音として判断した場合は、大脳辺縁系の海馬という部分には不快な経験としてメモリーされますし、扁桃体では不快感や恐怖として認識。扁桃体の反応はさらに、視床下部を通じて自律神経に「退避行動」を取るような命令を出させます。この自律神経によって命令される「退避行動」とは、心拍数の増加とか、血圧の上昇などなど、危険に対して身構えているようなものですから、リラックスとは正反対の、まさに緊張を強いられた状態となります。自律神経が内臓に対して退避行動を取るように命令することは、危険を回避しながら生きていくためには必要不可欠なことなのですが、それも過度になると、それ自体がストレスとなり弊害も多いわけです。さらに自律神経の緊張状態というのは、今度は大脳皮質を刺激しますから、ここからまた、大脳辺縁系へと不快なストレスを伴った信号が巡り巡っていくという悪循環を来してしまうわけです。(下のの図を参照して下さい。)

聴覚路3

こうなってしまうと、内耳の病変が落ち着いて、耳鳴を起こす病的な信号を、もう脳の方へは送ってこなくなってしまっていても、脳が一人歩きして、耳鳴を感じ続けるというようなことが起こります。無難聴性耳鳴や突発性難聴が治った後も耳鳴のみ続くケース、機能性難聴や心因性難聴に伴った耳鳴などには、このような状態が多いと思われます。

急性期の耳鳴、すなわち突発性難聴やメニエール病、中耳炎などによるもので、比較的発症後 間もないものは、元々の疾患をしっかりと治療することが重要で、それによって内耳での耳鳴発生を抑えます。しかし、内耳の状態が落ち着いた後にも、耳鳴が慢性的に続く場合、しかも苦痛や自律神経症状も伴う場合は、脳の中で起こっている悪循環を断ち切るための治療が必要になってくると思います。