まず花粉を何度も吸入するうちに身体に、花粉に対するIgE抗体というものが作られます。IgE抗体がある一定量に達するまでは無症状ですが、増えたIgE抗体は鼻粘膜にある肥満細胞という免疫細胞にくっついていきます。
ある一定量以上にIgE抗体が増えた状態で花粉を吸入するとIgE抗体が橋渡しをするように、花粉の抗原が肥満細胞に吸着されます。そうすると肥満細胞が活性化してヒスタミンやロイコトリエンという化学伝達物質を放出します。
ヒスタミンは三叉神経を介してくしゃみ中枢を刺激してくしゃみを生じたり、鼻腺に直接作用して鼻水を分泌させたりします。また、鼻の粘膜の毛細血管を拡張させますから、粘膜の容積が増えてその分鼻がつまりやすくなります。また血管の透過性を亢進させますから色々な炎症性の細胞が作用してさらに炎症が強くなるのです。ロイコトリエンもまた同様の機序で、鼻づまりを生じます。
いったん花粉症になると自然に治ることはほとんどありません。
文献によりますと、スギ花粉症の場合で全年齢を対象にした場合で10%、小児を対象とした場合ではわずか2%にしか自然に良くなったという例は見られませんでした。
治療でも唯一治す方法が減感作(脱感作療法)というものです。二年以上治療することにより、半数近くに症状の改善が認められます。
アレルギー性鼻炎 | 風邪 | ||
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主な原因 | ホコリ、ダニ、花粉など | ウイルス、細菌 | |
罹りやすい時期 | 通年、もしくは花粉の飛ぶ時期 | 風邪の流行期 | |
症状の続く期間 | 1〜2ヶ月以上 | 1〜2週間 | |
症状 | くしゃみ | 多い | 少ない |
鼻水・鼻汁 | サラサラ、透明 | 最初は透明だが、後には黄色ネバネバ。 | |
鼻づまり | ある | ある | |
随伴する症状 | 目の痒み、頭痛、喉のイガイガ感、微熱、咳 | 寒気、発熱、咽の痛み、咳、痰、関節痛、倦怠感 |
特に、2月から3月上旬にかけての時期は、風邪の流行期とスギ花粉症発症の時期が重なりますから、判断の付きにくいこともあります。その場合は症状の経過と鼻の中の状態、検査の結果などで総合的に判断していく必要があります。
アレルギー性鼻炎全体では増加傾向。
ハウスダストとダニによる通年性アレルギーは横ばい状態。
スギ花粉症は増加傾向で、特に、子供の増加が著しいです。
スギ花粉症増加の原因は、かつて一斉に植林されたスギの木がちょうど花粉を多く飛ばす樹齢になってきたことが一番と思われます。その他、地球温暖化や大気汚染なども関連している可能性もあるかも知れませんが、よく分かっていないことの方が多いです。
また住環境が清潔になったために、本来は寄生虫や細菌、ウイルスなどに向かうべき免疫力が発揮されなくなり、そのバランスが崩れてきていることも、アレルギー性鼻炎増加の要因として考えられています。
両親のうちのどちらかが、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などの場合は約50 %、両親ともアレルギー疾患がある場合は80〜90 %位の割合で、アレルギー性鼻炎になるようです。アレルギー性鼻炎になりやすい体質というのは確かに遺伝しますが、さらに発症までのプロセスには環境などの要因も関係します。
遺伝性はありますが、それが全てではないということになります。
アレルギー性鼻炎の症状を起こしにくくするためには、ハウスダスト・ダニ対策としては、換気をまめにして、水拭きを中心として掃除をまめにします。カーペットは使わない様にしましょう。ペットを飼う場合は特に抗原性の高いネコはお勧めできません。イヌもネコに次いでアレルギーが多いので極力飼わないことです。それでも飼いたい場合は外で飼うことですが、どうしてもそれが無理であれば、少なくとも一緒には寝ないこと、ブラッシングの際にはマスクを付けて行うことです。
花粉症対策はまず花粉情報に注意を向け、花粉の多い日の外出は極力避けることです。どうしても出かける場合はマスク、眼鏡などで予防です。衣類は毛、フリースは避けて綿など表面が平滑なものを選びます。帰宅後はうがい、洗顔をしましょう。
原因になっている花粉がはっきり分かる場合、あるいは毎年同じ時期に症状が出るのであれば、その花粉が飛んでいる時期や症状の出やすい時期には布団は外に干さず、布団乾燥機を使う様にします。洗濯物にも外に干している間に花粉は付着しますから、はたいてから取り込むようにするといいでしょう。
家の中にタバコを吸う人がいると、お子さんも副流煙を吸入してそれがさらに鼻の粘膜を痛め、症状が強く出やすくなります。お子さんのいるご家庭では禁煙か、それが無理であればお子さんが副流煙を吸わない工夫が必要となります。
ストレスもアレルギー性鼻炎の症状を強くすることが知られていますので、ストレスは上手に解消することが大事です。
年配の方にはそう考えている方がいらっしゃるようですが、それは間違いです。
「昔からあったのに分からなかった。」
「最近増加傾向にはあるが、それは環境などの要因が大きい。」
というのが本当のところであり、根性とは無関係です。
アレルギー性鼻炎は、精神論だけでは解決できない病気です
かつては、乳幼児の花粉症は非常に稀といわれましたが、最近では2歳以上でスギ花粉症になる子供が増えてきています。
もともとアレルギーのない子でも、小学生頃から突然花粉症になることもあります。
花粉症は全身疾患ですから、鼻以外にもいろいろの症状がおこります。
多いのは、咳、喉の違和感、喉の痛み、目の痒み、全身倦怠感などです。微熱がでることもあります。
耳鼻科では、症状、鼻の粘膜の状態などを診て判断します。さらに検査としては、鼻水の中の細胞成分をみてアレルギーかどうかを調べていきます(これを鼻汁中好酸球検査、あるいはハンセルテストといます。)。カゼの鼻炎では好中球という成分が増えますが、アレルギー性鼻炎では好酸球が増えます。
鼻水に好酸球が増えていればアレルギー性鼻炎の可能性が高くなります。アレルギー性鼻炎の他に好酸球が増える鼻炎としては、好酸球増多性鼻炎などがあります。
腕の内側にひっかき傷を付けて、アレルゲンを垂らして反応を見る方法(スクラッチテスト)と、採血して特異的IgE抗体を直接測る方法とがあります。
スギ花粉は花粉の粒子として観測される以前に、ごく微量の抗原が空気中に漂い出します。
この微量な抗原で自覚症状の出てくる人はごくわずかですが、自覚症状のない人でも、気がつかないうちに鼻の粘膜は徐々に敏感になっていきます。
こういった下地があると、さらに症状を起こすだけの花粉を吸入した場合、アレルギー反応は強く出やすくなります。
そこで自覚症の出る前、2週間ほど遡って前もって抗アレルギー薬を飲んでおくと、重症化を防ぐことができます。
これを、「初期治療」といいます。
15年ぐらい前までは、(抗アレルギー薬)=(眠くなる薬)という図式が成り立っていましたが、その後発売になった抗アレルギー剤は、眠くならない薬ばかりです。運転や仕事にも支障を起こさずに治療できるようになったのは、非常に良いことと思います。
抗アレルギー薬は処方箋を必要とするもの、しないもの、多くの種類のものが発売されていますが、大きく作用機序で分ければ3種類。「抗ヒスタミン作用のあるもの」、「ヒスタミン以外の化学伝達物質の作用を抑制するもの」、「ステロイド」です。
【抗ヒスタミン作用のあるもの】
アレルギー性鼻炎の諸症状のうち、くしゃみ、鼻水を抑える働きが強い。鼻、目、皮膚の痒みを和らげる作用もあります。かなり昔からあり、風邪薬などにも含まれます。古くからあるものは、口が渇く、眠くなるなどの副作用が強かったので、副作用を抑える方向で改良が進んできました。現在は眠気の全くない薬も数種類あります。
【ヒスタミン以外の化学伝達物質の作用を抑制するもの】
眠気がないのと、鼻づまりに対する作用が強いのが利点ですが、比較的薬価の高いのが欠点。鼻の粘膜肥厚による鼻づまりと、気管支粘膜の肥厚による呼吸困難や喘鳴は同じ様な病態で起こってくるので、それを抑えるこれらの薬は喘息にも適応のあるものが多いです。アレルギー性鼻炎(花粉症も含む)で、くしゃみ、鼻水、鼻づまりがいずれも強い場合は、抗ヒスタミン薬とこれらの薬を併用することもあります。
【内服ステロイド剤】
ステロイド剤と抗ヒスタミン剤の合剤である、セレスタミンがよく使われます。ステロイドとしては決して強い方ではないですが、長期にわたり内服すると副作用の懸念が出てきます。したがってファーストチョイスというよりも、抗アレルギー薬で効かない難治例に対して用いられることが多いのです。
【点鼻液】
点鼻には、抗アレルギー薬、ステロイド、血管拡張剤があります。抗アレルギー薬とステロイドの点鼻は比較的副作用も少ないので、抗アレルギー薬の内服に追加する形でよく併用されます。また、妊娠している方の場合でも、内服よりも薬剤の血中濃度はかなり低く保たれる利点がありますので、妊娠中期、後期には使用可能なものもあります。
これは長期間効果が持続するタイプのステロイドの注射のことで、確かに一度注射すればその年は薬を飲まなくとも済むかも知れません。ただし、効果はあくまでも1〜2ヶ月程度なので、決して「治る」わけではないのです。
また、一番の問題点は副作用として生理不順になったり、注射部位の筋肉が萎縮して陥凹したりすることです。短期間で効き目の取れるステロイドであれば、副作用が出たら止めればひどくならないわけですが、この長期間効くステロイドではそういうわけにはいきません。
確かに1シーズンに一度だけ注射さえすれば済むというのは、忙しい現代人にとっては魅力的な治療法なのでしょうが、副作用を考えるとお勧めできるものではなく、当院では行っておりません。
スギ花粉の飛散が終息するのは、地域によって異なりますが、関東地方では4月中旬、東北ですと4月末か5月初め頃です。
ただし、飛散終了後も家屋の床やカーテンなどに残った花粉が舞い上がることにより、症状がでますから、飛散終了後も1週間程度は薬を続けた方が良いです。また、スギ花粉症の方はヒノキ花粉症も合併していることが多いのですが、その場合はもう少し長く抗アレルギー薬を飲む必要があります
もともと、抗アレルギー薬は長く飲む必要があるケースが多いので、危険な副作用を持つものはないですし、長期間内服しても大丈夫なものがほとんどです。
古いタイプの抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬には、眠気や口の渇きなどを起こすものがあります。
また、重症の場合はステロイドを含むお薬を処方することもありますが、この場合は長期間内服すると、血糖値の上昇や胃潰瘍、骨粗鬆症などの副作用の現れることがありますので、短期間の使用に止めておくべきです。